電子の蓄積とその集団運動のその場観察
材料の電磁気特性を理解するためには、その内外に分布する電磁場を解析することが必要である。さらに電磁場は、多様な電子の振る舞いを起源としており、その可視化は電磁気特性を体系的に理解する上で不可欠である。電磁場による入射電子の位相変化を検出できる電子線ホログラフィーを用いて、我々は複雑な形態を持つ生物試料をはじめ、各種の絶縁体の帯電効果を利用することで試料近傍での、2次電子の集団運動の可視化に成功している。図はネズミの坐骨神経の微細線維(緑)周辺で観察された振幅再生像の例である。左下のカラースケールが示すように、電子の動きによる電場の乱れた領域が明黄色(干渉縞のvisibilityと振幅再生像のコントラストの低下に対応)で表示されている。上図の電子線照射初期では、電場の乱れに対応する領域は目立たないのに対し、電子線照射を継続する(下図2枚)と電場の乱れが増大し時間とともにその分布が変化する様子が捉えられている。一連の観察結果は、一旦試料から放出された2次電子が、電子線照射時間の増大とともに次第に強く帯電した絶縁体試料に引き付けられ、枝に囲まれた領域に徐々に蓄積し、集団的に移動している様子を示している。
ネズミの坐骨神経の微細線維(緑)周辺の振幅再生像。時間経過と共に電子の動きに伴う電場の乱れが生じた明黄色部が、枝に囲まれた領域内の矢印の部分に明瞭に観察される。