精密X線解析で観測する化学結合
当チームでは、高精度・高確度な単結晶X線回折実験と解析により価電子の分布を精度よく観測し、新奇な結合を有する分子や、不安定化学種を中心に、その性質を実験的に明らかにしている。
X線結晶構造解析は結晶中の全電子密度分布を、球状原子モデル(孤立原子モデル)を当てはめて近似することで、結晶中での原子の配列を得る手法である。これによって得られる分子の構造が、化合物の性質について重要な情報を与える。このため単結晶X線構造解析は、化学研究において欠くことのできない研究手法の一つとなっている。一方、分子の化学的性質に大きく寄与しているのは、価電子の分布である。分子の性質、特に新奇な結合や、反応性、電荷分離、結合状態、分子間相互作用の評価には価電子の分布を考慮する必要がある。しかし、通常のX線結晶構造解析では、価電子は構造モデルに取込まれないため、これらの定量的な評価を行うことができない。我々は球状原子モデルの代わりに多極子モデルを用いる手法で価電子の分布を解析し、新奇な結合、ラジカルの分布、結合開裂過程など、化合物の結合状態を中心に分子の性質を明らかにしている。
電子密度分布解析によって観測されたNi錯体の3d電子と結合電子の分布
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