
当チームでは、高分子材料や液晶をはじめとしたソフトマターのメソスコピックスケールにおける構造多様性に由来する物理・物性とその操作、そして光・電子デバイスや化学機能材料へと発展させるための研究を行っている。こうした構造多様性の本質は分子や分子集合体の自己組織化性にあるが、液晶のように程よい流動性を併せ持っている場合には、電場や磁場、光などの外場印加、あるいは界面の修飾などによりポテンシャル曲面を変化させることで、比較的容易に多様構造の選択・操作が可能となり、これにより極性構造やキラリティ、誘電周期構造といった、オプトロニクスを中心とした応用へ繋がる機能マテリアルを得ることができる。我々は、こうした構造・物性制御に加え、非線形光学測定・イメージングなどを得意とし、主な解析ツールとしている。
具体的には、1.新規液晶性強誘電体における物理機構解明とデバイス創製、2.自己組織化による巨視的キラリティ発現のメカニズム、コントロールと応用、3.カラムナー液晶のよる自己組織化性を切り口とした光・電子デバイスにおける物理機構の探索、などを行っている。
キラルネマチック液晶エマルションにおけるトポロジー依存・高効率レーマン回転の発見
キラルな液晶に熱勾配を印加すると、キラリティに対応した一方向に液晶が流動回転する現象が見られる。古くドイツの科学者レーマンにより見出された「レーマン回転」と呼ばれるこの現象については、発見からおよそ100年が経つにもかかわらず、完全な理解には至っていない。一方で、液晶におけるトポロジーは連続体における普遍的な特異(欠陥)点の性質として古くから知られており、各種複雑系の典型的な物理モデルとして基本的理解を行う上で重要であると考えられてきている。本研究で我々は、キラル液晶をフッ素溶媒中に分散させたエマルションでレーマン回転を発生させることに成功した。エマルション中に形成される液滴はトポロジー多様性を示し、その大きさやキラリティの強さによって異なるトポロジー状態に分別できる。本研究で実現されたレーマン回転では、こうしたトポロジー状態に熱-運動変換効率が依存する。この結果は、長年物理学者達を悩ませてきたレーマン回転そのものの理解に繋がるだけでなく、トポロジーの介在する物理現象として基礎科学的に興味深いものである。

(A) キラル液晶エマルションのトポロジカル多様性、(B) トポロジーに依存したレーマン回転の様子