センター長挨拶

Takahisa Arima

センター長 有馬孝尚

創発物性科学研究センター(RIKEN Center for Emergent Matter Science; CEMS)は、物理、化学、エレクトロニクスの基礎を統合し、研究のトップリーダーと次代を担う若手研究者を糾合した研究センターとして、2013年に誕生しました。「創発」とは、多数の構成要素からなる集合体において、個々の要素の性質の単なる足し算を超えた質的に異なる性質が出現することを意味する言葉です。

CEMSでは、物質中に存在する電子やスピンや分子の動きを制御することで、創発物性・機能の発現とその舞台となる物質やデバイスの創製を目指します。お互いに作用を及ぼしあう極めて多数の電子が示す物性機能を探る「強相関電子物理」、分子系が形成する超構造を設計し画期的な機能発現の場を提供する「超分子機能化学」、および、量子力学の支配する絡み合いを状態変数として利用する「量子情報エレクトロニクス」がCEMSの3つの基幹分野です。各分野の研究者が自らの興味に根差した新たな知の創造を目指すとともに、その知を糾合することによって、地球環境の持続と⼈類全体の未来の発展に結びつけます。

CEMSは、発足以来、「第3のエネルギー革命」を先導するような物質中の電子が示すエネルギー機能の開拓に取り組んでいます。18世紀末の産業革命は、人や動物の労働を石炭の燃焼エネルギーで置き換えました。19世紀には電磁気学が確立し、その知見に基づいた電気エネルギーの利用が始まりました。現在に至るまで、石炭、石油、原子力、天然ガス、水流、風などさまざまなエネルギー源からタービンの運動という力学エネルギーを経由して、電磁誘導によって電気エネルギーに転換し続けています。しかし、地球温暖化が人類の脅威となり、カーボンニュートラルが必達の目標となった今日、力学エネルギーを経由しない電気エネルギー創成への転換が必要です。CEMSは、電気エネルギーが物質中の電子の振る舞いそのものであることに立ち返り、物質の創発性に基づく新たな電磁気学の創成に挑戦しています。

急速に進む情報革命が地球沸騰と呼ばれる状況に及ぼす影響からも目をそらせません。情報の取得、記録、演算、伝達のそれぞれの場面における電気エネルギー消費が急拡大を続けているからです。物質の中においては情報の蓄積や変換がエネルギーの蓄積や変換とほとんど等価に扱えます。CEMSが取り組む創発電磁気学は、エネルギー消費の抑制と高度情報化社会の実現の両立にも役立つはずです。

CEMSでは、従来技術・原理の改良や延長ではなく、物性科学基礎研究からのアプローチによってのみ可能な、革新的な原理と新しい物質の発見を目指し続けます。


創発物性科学研究センター センター長 有馬孝尚