スピン軌道相互作用がもたらす新奇な絶縁体のメカニズムと超伝導の可能性
固体中の電子はクーロン相互作用、電子-格子相互作用、スピン軌道相互作用といった様々な影響の下で運動し、各物質固有の性質を生み出している。中でも近年、スピン軌道作用がもたらす興味深い物性に対する理解が進展し、注目を集めている。その一例である5d電子系遷移金属酸化物Sr2IrO4では、強いスピン軌道相互作用によってスピンと軌道の自由度が複雑に絡み合い、特異な量子状態が形成されていると考えられている。また、銅酸化物高温超伝導体の母物質と複数の類似点を持つことから、新たな超伝導物質の候補としても期待が持たれている。
当チームでは、複数の数値計算手法を用いてSr2IrO4をモデル化した3軌道ハバード模型の詳細な電子状態を解析した。その結果、強いスピン軌道相互作用の下で有効的な全角運動量Jeff=1/2が良い量子数となり、スピンと軌道が結合して出来た”擬スピン”が秩序化した反強磁性絶縁体(図(a)のx-AFI)が実現することを明らかにした。また、この絶縁体に電子をドープすることでdx2-y2波“擬スピン一重項”超伝導(図(b)のSC)が誘起され得ることを理論的に提案した。
スピン軌道相互作用を取り入れた3軌道ハバード模型の基底状態相図(a) 電子密度n=5、(b) n>5