2次元物質の対称性制御によるバルク光起電力の発生
近年、対称性を反映した非線形伝導現象が盛んに研究されるようになった、本チームは半導体、超伝導体を対象に非相反輸送現象、超伝導ダイオード効果などの研究を行っているが、ここでは半導体のバルク光起電力効果について紹介する。これはPN接合がなくても生ずる光起電力という意味で、反転対称性の破れた物質に見られる光電変換現象である。 WSe2やMoS2などの遷移金属第カルコゲナイド(TMD)は単層で三回対称を有する2次元物質物質であるが、このままではバルク光起電力を示さないことが知られている。しかしながら、形状変化やヘテロ接合の形成対称性を制御し極性を持たせることができる。この点がバルク物質と異なるナノ物質の大きな特徴である。具体的にはWS2ナノチューブ、WSe2/黒リンのファンワールスヘテロ接合、あるいはMoS2へのひずみ印加によって、可視~赤外領域に強いバルク光起電力が生ずることを見出した(文献Nature 570, 349 (2019), 3, 5)。この光起電力にはシフト電流機構が重要な役わりを果たしていることも明らかになっている。このように大きな光起電力効果を示す対称性制御したナノ物質は、高効率光発電、光センサーの新しい材料として期待される。
左:対称性を制御したTMD。上からナノチューブ、ファンデルワールスヘテロ構造、ひずみデバイス。 右:ナノTMDのバルク光起電力係数の波長依存性。古典的なバルク光起電力材料と比較している。
Copyright: 左:Adapted from “Nature Nanotechnology 18, 36 (2023).”
量子物質のナノデバイスによって革新的な新物性、省・創エネルギー機能の開発をめざす
FeSeはバルクから単層まで極薄膜化すると超伝導転移温度が8 Kから40 K(あるいは65~100 Kとも言われている)まで劇的に上昇する、極めて特異な2次元超伝導体である。しかしながら、試料作製の困難さから電子輸送測定の研究は非常に限られていた。本研究ではイオントロニクスの手法を用いてFeSe単層薄膜デバイスを作製して、世界で初めて熱物性の測定を行った。その結果、FeSe単層薄膜が室温以下で従来のあらゆる物質を上回る巨大な熱電電力因子を有することを明らかにした。
左図は、当チームで開発したFeSeの電気二重層トランジスタ(EDLT)の概念図である。精密に制御された電気化学エッチングを用いてFeSe単層デバイスを作製し、その熱電電力因子の温度依存性を初めて測定した。その結果、室温で250 μW/cm/K2という、Bi2Te3など有名な熱電材料を凌駕する値を示すだけではなく、単層FeSeが室温以下でこれまでのいかなる物質よりも大きな熱電電力因子を示すことが明らかになった(右図)。この例は量子ナノ物質が示す巨大機能のごく一端に過ぎず、今後も積極的な物質開発を開発を続けていく。
左:イオントロニクスの技術を用いて作製された単層FeSeデバイス
Adapted from “Nature Communications 10, 825 (2019).”
右:単層FeSeの熱電電力因子の温度依存性を他の物質系と比較して示す
イオントロニクスによって革新的省・創エネルギー材料の開発をめざす
イオンの動きや配列を制御して、従来の固体素子では困難な機能や物性を実現する新しい学理「イオントロニクス」のもと、電流のスイッチングをするだけでなく、超伝導・強磁性・金属絶縁体転移などの電子相転移を電圧によって制御することが可能となってきた。さらに最近では分野横断的な研究が進み、電気化学、物性科学、エネルギー材料開発にまたがる学際的かつ広大な研究分野に発展しつつある。
このイオントロニクスを代表する素子が、「固体界面に形成される電気二重層の巨大な電界」を電界効果トランジスタに応用した電気二重層トランジスタ(EDLT)である。当チームは、代表的な強相関酸化物である二酸化バナジウムを用いたEDLTを開発し、わずか1Vの電圧で、絶縁体から金属への相転移誘起することに成功した(左図)。また、酸化亜鉛では、熱電特性の最適化が可能であることを示し、実用材料であるビスマス・テルル系材料に匹敵するパワーファクターを有することを見出した。(右図)。これらの成果は、次世代の超低消費電力スイッチング素子や、革新的エネルギー創成技術への新しい道筋を示すものである。
左:VO2-EDLTにおける抵抗スイッチング
Adapted from “Nature 487, 459-462 (2012).” with permission (© 2012 Nature)
右:EDLTをもちいた、ZnOの熱電電力因子の最適化
Adapted from “PNAS, 113, 6438-6443 (2016).” with permission