創発デバイス研究グループ

主宰者

主宰者名 岩佐 義宏 Yoshihiro Iwasa
学位 工学博士
役職 グループディレクター
略歴
1986 東京大学工学部 博士課程修了
1986 同 助手
1991 同 講師
1994 北陸先端科学技術大学院大学材料科学研究科 助教授
2001 東北大学金属材料研究所 教授
2010 東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻 教授
2010 理化学研究所 強相関複合材料研究チーム チームリーダー
2013 同 創発物性科学研究センター 超分子機能化学部門 創発デバイス研究チーム チームリーダー
2024 同 創発物性科学研究センター 創発デバイス研究グループ グループディレクター(現職)
2024 同 創発物性科学研究センター 副センター長 (現職)

研究室概要

2次元物質を中心とする量子物質とそのナノデバイスを用いて、量子物性機能の開拓、革新的エネルギー材料の創製に貢献することが本チームの目的である。特に、酸化物やカルコゲナイドをベースにした2次元物質、ナノチューブ、量子ドットなどの低次元物質の物性開拓を推進する。2次元物質については、ファンデルワールスヘテロ接合や電気二重層トランジスタによって、電子状態の制御、量子輸送現象などの研究を行い、量子ドット薄膜では、表面改質や溶液プロセスにより薄膜構造とその電子機能の開拓を行う。これらによって、2次元超伝導、量子相制御、非相反輸送現象の開拓、および熱電変換、光電変換、蓄電機能の増強を目指す。

研究分野

物理学、工学、化学、材料科学

キーワード

2次元物質
ナノチューブ
量子ドット
超伝導
熱電効果
非相反現象
異常光起電力

研究紹介

2次元物質の対称性制御によるバルク光起電力の発生

近年、対称性を反映した非線形伝導現象が盛んに研究されるようになった、本チームは半導体、超伝導体を対象に非相反輸送現象、超伝導ダイオード効果などの研究を行っているが、ここでは半導体のバルク光起電力効果について紹介する。これはPN接合がなくても生ずる光起電力という意味で、反転対称性の破れた物質に見られる光電変換現象である。 WSe2やMoS2などの遷移金属第カルコゲナイド(TMD)は単層で三回対称を有する2次元物質物質であるが、このままではバルク光起電力を示さないことが知られている。しかしながら、形状変化やヘテロ接合の形成対称性を制御し極性を持たせることができる。この点がバルク物質と異なるナノ物質の大きな特徴である。具体的にはWS2ナノチューブ、WSe2/黒リンのファンワールスヘテロ接合、あるいはMoS2へのひずみ印加によって、可視~赤外領域に強いバルク光起電力が生ずることを見出した(文献Nature 570, 349 (2019), 3, 5)。この光起電力にはシフト電流機構が重要な役わりを果たしていることも明らかになっている。このように大きな光起電力効果を示す対称性制御したナノ物質は、高効率光発電、光センサーの新しい材料として期待される。

 

左:対称性を制御したTMD。上からナノチューブ、ファンデルワールスヘテロ構造、ひずみデバイス。 右:ナノTMDのバルク光起電力係数の波長依存性。古典的なバルク光起電力材料と比較している。
Copyright: 左:Adapted from “Nature Nanotechnology 18, 36 (2023).”

 

量子物質のナノデバイスによって革新的な新物性、省・創エネルギー機能の開発をめざす

FeSeはバルクから単層まで極薄膜化すると超伝導転移温度が8 Kから40 K(あるいは65~100 Kとも言われている)まで劇的に上昇する、極めて特異な2次元超伝導体である。しかしながら、試料作製の困難さから電子輸送測定の研究は非常に限られていた。本研究ではイオントロニクスの手法を用いてFeSe単層薄膜デバイスを作製して、世界で初めて熱物性の測定を行った。その結果、FeSe単層薄膜が室温以下で従来のあらゆる物質を上回る巨大な熱電電力因子を有することを明らかにした。

左図は、当チームで開発したFeSeの電気二重層トランジスタ(EDLT)の概念図である。精密に制御された電気化学エッチングを用いてFeSe単層デバイスを作製し、その熱電電力因子の温度依存性を初めて測定した。その結果、室温で250 μW/cm/K2という、Bi2Te3など有名な熱電材料を凌駕する値を示すだけではなく、単層FeSeが室温以下でこれまでのいかなる物質よりも大きな熱電電力因子を示すことが明らかになった(右図)。この例は量子ナノ物質が示す巨大機能のごく一端に過ぎず、今後も積極的な物質開発を開発を続けていく。

 

図

左:イオントロニクスの技術を用いて作製された単層FeSeデバイス
Adapted from “Nature Communications 10, 825 (2019).”
右:単層FeSeの熱電電力因子の温度依存性を他の物質系と比較して示す

 

イオントロニクスによって革新的省・創エネルギー材料の開発をめざす

イオンの動きや配列を制御して、従来の固体素子では困難な機能や物性を実現する新しい学理「イオントロニクス」のもと、電流のスイッチングをするだけでなく、超伝導・強磁性・金属絶縁体転移などの電子相転移を電圧によって制御することが可能となってきた。さらに最近では分野横断的な研究が進み、電気化学、物性科学、エネルギー材料開発にまたがる学際的かつ広大な研究分野に発展しつつある。

このイオントロニクスを代表する素子が、「固体界面に形成される電気二重層の巨大な電界」を電界効果トランジスタに応用した電気二重層トランジスタ(EDLT)である。当チームは、代表的な強相関酸化物である二酸化バナジウムを用いたEDLTを開発し、わずか1Vの電圧で、絶縁体から金属への相転移誘起することに成功した(左図)。また、酸化亜鉛では、熱電特性の最適化が可能であることを示し、実用材料であるビスマス・テルル系材料に匹敵するパワーファクターを有することを見出した。(右図)。これらの成果は、次世代の超低消費電力スイッチング素子や、革新的エネルギー創成技術への新しい道筋を示すものである。

図

左:VO2-EDLTにおける抵抗スイッチング
Adapted from “Nature 487, 459-462 (2012).” with permission (© 2012 Nature)
右:EDLTをもちいた、ZnOの熱電電力因子の最適化
Adapted from “PNAS, 113, 6438-6443 (2016).” with permission

メンバー一覧

岩佐 義宏 Yoshihiro Iwasa

グループディレクター iwasay[at]riken.jp

板橋 勇輝 Yuki Itahashi

基礎科学特別研究員

 Ricky Dwi Septianto

特別研究員 rickydwiseptianto[at]riken.jp

下起 敬史 Takashi Shitaokoshi

特別研究員 takashi.shitaokoshi[at]riken.jp

Retno Dwi Wulandari

国際プログラム・アソシエイト

Thanyarat Phutthaphongloet

国際プログラム・アソシエイト

Alec Paul Romagosa

国際プログラム・アソシエイト

Satria Bisri

客員研究員

Nan Jiang

客員研究員

主要論文

  1. H. Matsuoka, S. Kajihara, Y. Wang, Y. Iwasa, M. Nakano

    Band-driven switching of magnetism in a van der Waals magnetic semimetal

    Sci. Adv. 10, eadk1415 (2024)
  2. R. D. Septianto, R. Miranti, T. Kikitsu, T. Hikima, D. Hashizume, N. Matsushita, Y. Iwasa, and S. Z. Bisri

    Enabling metallic behaviour in two-dimensional superlattice of semiconductor colloidal quantum dots

    Nat. Commun. 14, 2670 (2023)
  3. Y. Dong, M.-M. Yang, M. Yoshii, S. Matsuoka, S. Kitamura, T. Hasegawa, N. Ogawa, T. Morimoto, T. Ideue, and Y. Iwasa

    Giant bulk piezophotovoltaic effect in 3R-MoS2

    Nat. Nanotechnol. 18, 36-41 (2022)
  4. Y. Nakagawa, Y. Kasahara, T. Nomoto, R. Arita, T. Nojima, and Y. Iwasa

    Gate-controlled BCS-BEC crossover in a two-dimensional superconductor

    Science 372, 190+ (2021)
  5. T. Akamatsu, T. Ideue, L. Zhou, Y Dong, S. Kitamura, M. Yoshii, D. Yang, M. Onga, Y. Nakagawa, K. Watanabe, T. Taniguchi, J. Laurienzo, J. Huang, Z. Ye, T. Morimoto, H. Yuan, Y. Iwasa

    A van der Waals interface that creates in-plane polarization and a spontaneous photovoltaic effect

    Science 372, 68-72 (2021)

研究紹介記事