光第二次高調波発生のダイオード効果
空間反転対称性と時間反転対称性が同時に破れたマルチフェロイック物質では、光の進行方向の反転により光応答が変化する非相反光学効果が生じる。これまで、透過、発光、散乱、屈折等、線形光学過程において多彩な非相反効果が報告されてきた。我々は非線形光学過程における非相反効果に着目し、CuB2O4における非相反光第二次高調波発生の観測を行った。非相反光学効果は磁気双極子遷移と電気双極子遷移の干渉によって生じる。一般に前者は後者よりも圧倒的に小さいため、通常は非相反性が無視できるほど小さい。我々は、Cuサイトの磁気双極子遷移が共鳴励起によって増大し、非共鳴の電気双極子遷移と同程度の大きさを持つことを発見した。その結果、両者が同位相、同振幅で干渉し、高調波発生強度が97%変化するほぼ完全な非線形非相反光学効果を実現した。さらに、この非相反性がわずか10 mTの磁場によって反転可能であることを示した。
(左)非相反第二次高調波発生の模式図 (右)SHG強度の磁場依存性
シフトカレントの超高速スペクトル
空間反転対称性の破れたバルク結晶に光を照射すると、バンド間励起にともなって電子雲の重心が実空間で変位する「シフトカレント」が発生する。シフトカレントは電子軌道のトポロジーを反映しており、超高速、低散逸、起電力がバンドギャップエネルギーを大きく超える等、従来の太陽電池や光センサーには無い特徴を有する。我々は、フェムト秒レーザーを用いてシフト電流を駆動し、その電荷運動が放射するTHz電磁波を分光することにより、励起素過程を追跡した。結果、光子の吸収に際して電子雲は瞬時にその位置を移動すること、偏光に対するテンソル応答、散乱をともなったバンド内緩和、また実験で得られた励起スペクトルと結晶構造をもとにした第一原理計算が定量的に良い一致を示すことなど、強誘電性半導体や極性半導体中におけるシフトカレントの基礎物性が明らかとなった。
光照射によるシフトカレント発生と、シフトカレントからのTHz電磁波放射
トポロジカル磁気秩序の光励起ダイナミクス
サブピコ秒の光パルスを用いて物質中のスピンを制御することにより、高速の磁気メモリや全光素子‐磁気素子の直接接続などの実現が可能となる。その一手法としてパルス光による光磁気効果の研究が進展している。これは、スピン軌道相互作用の強い物質にパルス円偏光を照射した際、大きな有効磁場が発生しスピン系が応答する現象で、瞬時ラマン過程による逆ファラデー効果と呼ばれている。我々は次世代スピントロニクス媒体として期待されている磁気スキルミオンを逆ファラデー効果により瞬時励起し、カイラル磁性絶縁体Cu2OSeO3中のスキルミオンの回転・ブリージングのコヒーレント運動を明らかにした。また鉄ガーネット薄膜(YIG)においては、同様のラマン励起により磁気弾性波(スピン波と格子振動の結合モード)を発生することに成功し、その時空間発展のイメージング分光を行った。磁気弾性波は磁壁や磁気バブルドメイン(スキルミオン)と引力相互作用を示すこと、またその大きさは一般に磁気構造の曲率に依存することを明らかにした。
(a) パルス円偏光による瞬時ラマン励起の模式図
(b) スキルミオン励起の磁気光学応答
(c) 光励起磁気弾性波の磁気光学顕微像(励起から6ナノ秒後)
(d) 磁気弾性波によるバブルドメインの操作