マヨラナ量子ビットへ向けた超伝導体/InAsナノワイアハイブリッド構造の研究
量子コンピュータの開発が活発に進められているが、量子状態を安定に維持するためにさけるべきデコヒーレンスやノイズの問題は、依然、大規模化に向けた大きな問題である。マヨラナ粒子をもちいたトポロジカル量子ビットは、安定に量子状態を保持できると考えられるため、この問題を大きく軽減できる新たな量子ビットとして期待できる。残念ながらマヨラナ粒子はその存在がいまだ実験的に確証が得られたとは言えない状況であるが、我々はマヨラナ量子ビットに向け半導体ナノワイアと超伝導体、トポロジカル絶縁体と超伝導体のハイブリッド構造を用いて研究を行っている。図はInAsナノワイアを分子線エピタキシー法で成長し、さらに真空を破ることなく超伝導体であるアルミニウムを蒸着することにより急峻な界面を持つSNS型ジョセフソン接合(S:超伝導体、N:正常金属)の電子顕微鏡写真を示す。本研究では、ナノワイアジョセフソン接合をもつRF-SQUIDループをマイクロ波共振器と結合することにより、マヨラナ束縛状態の分光測定を目指している。なお、本研究はThomas Schäpers教授(ドイツ・ユーリッヒ研究所)との共同研究である。
InAsナノワイアとアルミニウムで作製したSNS型ジョセフソン接合の電子顕微鏡写真
ハイブリッド量子情報デバイスを目指したマイクロ波共振器中の量子ドットの研究
本研究では、量子ドットをマイクロ波回路共振器に埋め込んだハイブリッド量子情報デバイスの実現を目指している。量子ドットのサイズは自然の原子に比べて格段に大きいので、単一光子の電界でも大きな相互作用を得ることができ、電子と光子がエンタングルした状態の形成も期待できる。単一スピンと光子の相互作用は磁気的なものであり、電気的な相互作用に比べてずいぶん小さいため、スピン軌道相互作用(SOI)を介してスピンと光子間の大きな相互作用を得ることも検討している。そのため、本研究ではSOIの大きなInSbやGe/Siからなるナノワイアを用いて量子ドットを形成する。図は超伝導体で作製したコプレーナ型マイクロ波共振器の中に量子ドットを置いた試料である。極低温(~100mK)において、共振器中のマイクロ波の強度は光子数にして1光子以下となる条件で、量子ドットの電荷(スピン)状態を透過するマイクロ波の共振特性の変化として測定する。現在のところ量子ドット中の単一電荷と光子の相互作用は確認されているが、量子ドットのデコヒーレンスが電子・光子間の相互作用よりも大きいためコヒーレントな相互作用は得られていない。
超伝導体で作製したコプレーナ型マイクロ波共振器とその中に埋め込んだGe/Siナノワイヤー量子ドットの電子顕微鏡写真