量子電子デバイス研究チーム

主宰者

主宰者名 山本 倫久 Michihisa Yamamoto
学位 博士(理学)
役職 チームリーダー
略歴
2004 東京大学大学院理学系研究科物理学専攻 博士課程修了(理学)
2004 東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻 助手
2007 同 助教
2014 同 講師
2017 東京大学大学院工学系研究科附属量子相エレクトロニクス研究センター 特任准教授
2017 理化学研究所 創発物性科学研究センター 統合物性科学研究プログラム 量子電子デバイス研究ユニット ユニットリーダー
2020 同 量子電子デバイス研究チーム チームリーダー(現職)
2023 東京大学大学院工学系研究科附属量子相エレクトロニクス研究センター 教授(現職)

研究室概要

当チームでは、固体中の量子自由度の制御と伝送の技術に基づいた量子電子デバイスの創製に取り組む。具体的には、半導体微細構造中を伝搬する電子の量子状態を1電子単位で制御する量子電子光学実験や原子層物質における新たな量子自由度の伝送・制御の実験によって量子コヒーレンスの広がりや量子相関、量子変換の物理を解明し、それに基づいた量子デバイスの指導原理を開発する。同時に、高度な量子技術を用いて物性科学の問題をミクロな視点から解き明かし、量子技術と物性科学を融合させた新しいフロンティアを切り拓く。

研究分野

物理学、工学

キーワード

2次元電子系
単一電子制御
ナノデバイス
量子コヒーレンス
量子相関

研究紹介

近藤遮蔽雲の電気制御と量子シミュレーション

局在スピンと伝導電子との間の相互作用によって生じる近藤効果は、超伝導と並んで最も典型的な電子間相互作用効果として知られる。近藤効果が起きているとき、局在スピンと結合する伝導電子が雲のように広がって局在スピンを遮蔽することから、その状態は「近藤雲」とも呼ばれる。近藤雲は、局在スピンと伝導電子スピンとの間の量子もつれのエネルギーに対応する「近藤温度」の逆数に比例するサイズと普遍的な形状を有する。

近藤雲は、半導体の人工原子に局在スピンを閉じ込め、周囲の伝導電子と結合させることで形成できる。最近の研究では、近藤雲を電子波干渉によって変形させ、局在スピンと伝導電子スピンとの間の量子もつれを人工的に制御できることが明らかになった。現在、複数の近藤雲が重なった場合について、更なる研究を進めている。局在スピンが複数存在する電子間相互作用が強い物理系は量子多体系であり、その物理量の計算が困難であることが知られている。近藤雲を単位とした量子系の精密な制御により、長距離スピン結合に関する量子シミュレーションの実現が期待できる。

近藤雲の観察実験に用いられた試料の模式図と近藤雲の形状。量子ポイントコンタクトのゲート電圧(VQPC)による近藤雲の変調具合を定量化することによって近藤雲の形状を得た。
Figure taken from Nature 579, 210 (2020).

 

電子波の量子制御と散乱位相測定

量子力学の原理に従う量子デバイスでは、波動関数の振幅の2乗で表される電荷の確率密度に加え、波動関数の位相が重要な役割を果たす。電子波の位相変化を精密に制御、観測する技術は、量子デバイスの開発に有効なだけでなく、これまで検証が難しかった固体中の量子力学的な効果を微視的に解明する際にも有用である。我々は、伝搬する電子の量子状態(電子波)を精密に制御できる量子電子光学実験を利用して、電子波の人工原子による散乱問題を明らかにしてきた。

最近は、電子波の量子制御技術を量子情報処理に応用する試みを進めている。電子波をベースとして、オンデマンドで生成される準粒子の非局在量子ビットを制御できると、光の量子システムと同様に、ハードウェアサイズに制限されずに多数の量子ビットを同時に制御できる可能性がある。これを実現し、半導体量子ビットのアーキテクチャーを質的に一新させることを将来目標としている。

図

(a) 人工原子の位相測定に使用された試料の電子顕微鏡写真と測定模式図。Aharonov-Bohmリングにおける上下の経路の位相差に応じて出力電流I1I2が逆位相で振動する。(b) 測定された電流(I =I1I2)の干渉成分から抽出した位相変化(上)及び干渉強度と全コンダクタンス(下)。量子ドット内の軌道のパリティに応じて、電流値が極大値を取るクーロンピークの間で位相が跳ぶ場合と跳ばない場合がある。
Figure (b) taken from Nature Communications 8, 1710 (2017).

メンバー一覧

山本 倫久 Michihisa Yamamoto

チームリーダー michihisa.yamamoto[at]riken.jp

島﨑 佑也 Yuya Shimazaki

研究員 yuya.shimazaki[at]riken.jp

Han Ngoc Tu

研究員

David Pomaranski

客員研究員

主要論文

  1. M. Tanaka, K. Watanabe, T. Taniguchi, K. Nomura, S. Tarucha, and M. Yamamoto

    Temperature-induced phase transitions in the correlated quantum Hall state of bilayer graphene

    Phys. Rev. B 105, 075427 (2022)
  2. R. Ito, S. Takada, A. Ludwig, A. D. Wieck, S. Tarucha, and M. Yamamoto

    Coherent beam splitting of flying electrons driven by a surface acoustic wave

    Phys. Rev. Lett. 126, 070501 (2021)
  3. M. Tanaka, Y. Shimazaki, I. V. Borzenets, K. Watanabe, T. Taniguchi, S. Tarucha, and M. Yamamoto

    Charge Neutral Current Generation in a Spontaneous Quantum Hall Antiferromagnet

    Phys. Rev. Lett. 126, 016801 (2021)
  4. I. Borzenets, J. Shim, J. C. H. Chen, A. Ludwig, A. D. Wieck, S. Tarucha, H. S. Sim, and M. Yamamoto

    Observation of the Kondo screening cloud

    Nature 579, 210 (2020)
  5. Y. Shimazaki, M. Yamamoto, I. V. Borzenets, K. Watanabe, T. Taniguchi, and S. Tarucha

    Generation and detection of pure valley current by electrically induced Berry curvature in bilayer graphene

    Nat. Phys. 11, 1032 (2015)