室温でアンチスキルミオンを示す新物質の発見
スキルミオンは、整数のトポロジカル数で定義されるナノメートルサイズの磁気渦であり、安定な粒子として振舞うことから、高性能の磁気メモリーとしての応用が期待されている。一方、アンチスキルミオンは、スキルミオンと逆符号のトポロジカル数を持つ磁気渦であり、新しいトポロジカル磁気構造として近年注目されている。しかしながら、これまでに報告されているアンチスキルミオン物質はD2d対称性を持つホイスラー合金のみであり、アンチスキルミオンのトポロジカル物性の解明と応用の実現に向けて、新物質開拓が求められていた。当グループでは、S4対称性を持つシュライバーサイト (Fe, Ni)3PにPdを加えたFe1.9Ni0.9Pd0.2Pを合成し、室温を含む広い温度範囲でアンチスキルミオンが発現することを発見した。また、磁場や試料の厚さを変えることでアンチスキルミオンとスキルミオンが相互変換できることや、厚い試料の表面付近でS4対称性を反映したノコギリ型の新奇な磁気ドメイン構造が発現することを見出した。
(a)スキルミオン、(b)アンチスキルミオン、および(c)アンチスキルミオン物質の結晶構造の対称性を模式的に示した。
室温スキルミオンと準安定状態におけるスキルミオン格子の構造変形
スキルミオンはナノメートルサイズの磁気渦であり、トポロジカルな性質により安定な粒子として振舞う。このため、高性能の磁気メモリーとしての応用が期待されている。しかしながら、これまでに報告されているカイラル・スキルミオンの生成は280 K以下の温度に限られており、応用の観点からは、より高温でスキルミオンを実現することが望まれていた。当チームでは、立方晶でカイラルなb-Mn型構造のCo-Zn-Mn合金において、室温および室温以上の温度でスキルミオン結晶が生成することを発見した。さらに、この熱平衡スキルミオン相から磁場を印加したまま冷却することで、幅広い温度および磁場領域において、スキルミオン格子が準安定状態として存在し続けることを見出した。また、磁場中冷却の過程で、スキルミオン格子の形状が、通常の三角格子から、正方格子へと変形することを見出した。
スキルミオン格子の構造変形