磁性トポロジカル絶縁体を用いた量子抵抗標準素子の開発
トポロジカル絶縁体は、物質内部は絶縁体であるにもかかわらず、金属的な表面状態を有する物質群である。磁性元素を添加した磁性トポロジカル絶縁体では、電流に垂直方向の抵抗(ホール抵抗)が電気抵抗の量子単位であるフォン・クリッチング定数(h/e2, hはプランク定数、eは素電荷)に量子化する。量子異常ホール効果として知られているこの現象は、外部磁場なしでも生じることから、強磁場発生装置を用いない新しいタイプの量子抵抗標準素子への応用が期待されている。
本研究では、分子線エピタキシー法を用いて、磁性トポロジカル絶縁体ヘテロ構造薄膜を作製し、産業総合技術研究所の研究チームと共同で、量子異常ホール効果の量子化精度を測定した。実験では、試料の磁区を揃えるために小型永久磁石を用いた。測定結果から、量子異常ホール抵抗が、国家計量標準と同等な8桁の精度を持つことを明らかにした。取り扱いの難しい強磁場発生装置が不要になったことで、最高精度の抵抗標準の小型化が可能になると期待される。

(左)量子異常ホール効果測定に使用したデバイスの概念図。磁区を揃えるために小型永久磁石を用いた。(右)縦抵抗(Rxx)とホール抵抗(Ryx)の温度依存性。温度1ケルビン以下で、ホール抵抗がh/e2となる量子異常ホール効果が発現する。