中心対称性のあるブリージングカゴメ格子磁性体におけるスキルミオン
固体中の非共面的磁気秩序は創発磁場を生じ、電荷の運動に強く影響する。創発磁場は、非共面的スピンテクスチャの周期λが小さくなるほど増大する。我々は、金属間化合物における非常に短い周期(λ~2-3 nm)のスピンテクスチャを調べ、スキルミオン渦によって生じる巨大なトポロジカルホール・ネルンスト効果を見出した。六方晶のGd2PdSi3とGd3Ru4Al12は中心対称性のある化合物であり、この結果は重要なパラダイムに一石を投じている。すなわち、スキルミオン形成には反転対称性のない物質におけるジャロシンスキー・守谷相互作用が重要と考えられていたが、代わりに、対称性の高い格子における競合する相互作用、Gd3+モーメント間に働くRuderman-Kittel-Kasuya-Yosida (RKKY)相互作用によっても、短周期の非共面的磁気秩序が生じる。Gd3Ru4Al12におけるスキルミオン格子(図参照)は、中性子・X線散乱、ローレンツ透過電子顕微鏡観察によって確かめられた。これらのスキルミオン研究の今後の方向性は、ヘリシティー分域構造、磁気秩序-光結合、反スキルミオンや反強的に積層したスキルミオンなどの磁気渦格子の探索などがある。これらのエキゾチックな磁気秩序は、中心対称性のある磁性体において実現の可能性がある。
中心対称性のある六方晶金属Gd3Ru4Al12におけるスキルミオン形成。(a) この結晶構造上でGd3+の磁気モーメントは相関の強いスピン三量体を形成し、それらは弱い次近接相互作用によって結合している。それぞれの面内における希土類サイトは歪んだ(“ブリージング”)カゴメ格子を形成している。(b) スキルミオン磁気渦の二次元断面の模式図。それぞれの矢印は、格子上でのGd3+の磁気モーメントを表している。(c) 磁場をc軸方向に印加した際の磁気相図。競合する相互作用のため、多くの磁気相が観測される。(d) スキルミオン格子相(‘SkL’と表示)でのみ、グレーの影で示されたように、大きなトポロジカルホール効果が見出された。(e) Gd3Ru4Al12薄片試料のSkL相における実空間像。原子の結晶格子と磁気テクスチャの両者の特徴がみてとれる。(f) パネル(e)のデータのフーリエ変換。ここでは原子の結晶格子とスキルミオン磁気テクスチャによる散乱は、それぞれ赤と黄色の丸で示されている。(e)の挿入図はフーリエ像にフィルターをかけて逆変換したもの。