トポロジカル量子物質研究ユニット

主宰者

主宰者名 Max Hirschberger
学位 Ph.D.
役職 ユニットリーダー
略歴
2011 ドイツ ミュンヘン工科大学物理学科卒業
2017 米国 プリンストン大学物理学専攻 Ph.D.取得
2017 理化学研究所 創発物性科学研究センター 特別研究員
2018 日本学術振興会・フンボルト財団 外国人特別研究員/理化学研究所 創発物性科学研究センター 訪問研究員
2019 東京大学大学院工学系研究科附属量子相エレクトロニクス研究センター 特任講師
2019 理化学研究所 創発物性科学研究センター トポロジカル量子物質研究ユニット ユニットリーダー(現職)
2021 東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻 准教授 (現職)
2021 東京大学大学院工学系研究科附属量子相エレクトロニクス研究センター 特任准教授 (現職)

研究室概要

当ユニットでは、磁気スキルミオンなど非共面的なスピン秩序と電子バンド構造による効果に着目して研究している。薄膜成長可能で、新しい保護された表面状態を実現する可能性のある強相関物質に特に注目する。手法としては、密度汎関数理論に基づいた物質探索、単結晶合成、超高精度の輸送現象測定などを行う。理研内外の研究者と緊密な共同研究を行い、量子ビーム散乱や実空間観察によって磁気構造を解明する。また、国内や欧米の強磁場施設を利用し、45 T(静磁場)もしくは100 T(パルス磁場)までの超強磁場中での物性を調べる。

研究分野

物理学、材料科学

キーワード

強相関電子系
磁性
スキルミオン
スピン-軌道相互作用
創発電磁気学
トポロジカル物質
フラストレート磁性体
ベリー位相物理

研究紹介

層状ファンデルワールス物質DyTe3における非共面的らせん磁性

異方性の高い化学結合を持つファンデルワールス磁性体は剥離法により、超薄膜デバイスや界面物性を実現することができる。しかし、将来のツイストロニクスへの応用を考えると、この物質群には格子非整合ならせん磁性体が存在しないことが課題と言える。われわれは、偏極中性子散乱によって、DyTe3におけるサイクロイド状(円錐状)の磁気構造を明らかにし、磁気モーメントと電荷密度波(CDW)が結合したスピン・ハミルトニアンを確立した。qAFM = (0 1 0.5)はc軸に沿ったuudd型の反強磁性結合を意味し、qcyc = (0 0 0.207)は電荷とスピン密度波の結合を示すサイクロイド成分に対応する。さらに、この物質群の特有な結晶構造がらせん磁性の鍵となることを明らかにした。つまり、 Dy3+イオンの共有結合と金属結合が混在する結晶場により、磁気異方性が抑制されると同時に、磁気モーメントと電荷密度波秩序の強い結合が発現する。私たちの研究は、らせん磁性層を組み合わせて複雑なスピンテクスチャーを自由自在に形成できるツイストロニクス研究への道を開くものである。

層状ファンデルワールス金属DyTe3における非共面的らせん磁性。a, 共有結合したDyTe相と金属的なTe相を2つずつ持つDyTe3の結晶構造。相互作用J1, J2はそれぞれジグザグ鎖モデルにおける最近接および次近接相互作用を表す。中性子散乱によって、ゼロ磁場基底状態が円錐状の非共面的ならせん磁気構造であることがわかった。a軸に平行な円錐の方向は、ジグザグ鎖の磁性サイトの対の間でも、ジグザグ鎖の積み重ねの間でも交互に変化する。この磁気構造はb軸、すなわち正方形ネットTe層の垂直方向に偏光を引き起こす(黄色の矢印)。 c, 層状DyTe3(灰色の平面、Dyの正方形ネットを示す)からの偏光中性子散乱の実験配置。散乱面(青)は,入射中性子ビームと出射中性子ビームの波動ベクトルki, kfを含む。散乱された中性子のスピンフリップ(SF, 赤)と非スピンフリップ(NSF, 青)の散乱強度から、円錐磁気秩序を同定した。d,e, 格子非整合サイクロイド反射qcycの偏光解析:スピンフリップ(SF)強度がないことはmbmcがないことを示し、非スピンフリップ(NSF)強度はmaが支配的であることを示す。f, H∥[101]の帯磁率χと比熱(白丸)と磁化(黒丸)から決定した相境界を含む磁気相図: I(円錐基底状態)、II、III、IV、V。

 

中心対称性のあるブリージングカゴメ格子磁性体におけるスキルミオン

固体中の非共面的磁気秩序は創発磁場を生じ、電荷の運動に強く影響する。創発磁場は、非共面的スピンテクスチャの周期λが小さくなるほど増大する。我々は、金属間化合物における非常に短い周期(λ~2-3 nm)のスピンテクスチャを調べ、スキルミオン渦によって生じる巨大なトポロジカルホール・ネルンスト効果を見出した。六方晶のGd2PdSi3とGd3Ru4Al12は中心対称性のある化合物であり、この結果は重要なパラダイムに一石を投じている。すなわち、スキルミオン形成には反転対称性のない物質におけるジャロシンスキー・守谷相互作用が重要と考えられていたが、代わりに、対称性の高い格子における競合する相互作用、Gd3+モーメント間に働くRuderman-Kittel-Kasuya-Yosida (RKKY)相互作用によっても、短周期の非共面的磁気秩序が生じる。Gd3Ru4Al12におけるスキルミオン格子(図参照)は、中性子・X線散乱、ローレンツ透過電子顕微鏡観察によって確かめられた。これらのスキルミオン研究の今後の方向性は、ヘリシティー分域構造、磁気秩序-光結合、反スキルミオンや反強的に積層したスキルミオンなどの磁気渦格子の探索などがある。これらのエキゾチックな磁気秩序は、中心対称性のある磁性体において実現の可能性がある。

図

中心対称性のある六方晶金属Gd3Ru4Al12におけるスキルミオン形成。(a) この結晶構造上でGd3+の磁気モーメントは相関の強いスピン三量体を形成し、それらは弱い次近接相互作用によって結合している。それぞれの面内における希土類サイトは歪んだ(“ブリージング”)カゴメ格子を形成している。(b) スキルミオン磁気渦の二次元断面の模式図。それぞれの矢印は、格子上でのGd3+の磁気モーメントを表している。(c) 磁場をc軸方向に印加した際の磁気相図。競合する相互作用のため、多くの磁気相が観測される。(d) スキルミオン格子相(‘SkL’と表示)でのみ、グレーの影で示されたように、大きなトポロジカルホール効果が見出された。(e) Gd3Ru4Al12薄片試料のSkL相における実空間像。原子の結晶格子と磁気テクスチャの両者の特徴がみてとれる。(f) パネル(e)のデータのフーリエ変換。ここでは原子の結晶格子とスキルミオン磁気テクスチャによる散乱は、それぞれ赤と黄色の丸で示されている。(e)の挿入図はフーリエ像にフィルターをかけて逆変換したもの。

メンバー一覧

Max Hirschberger

ユニットリーダー maximilian.hirschberger[at]riken.jp

主要論文

  1. L. Spitz, T. Nomoto, S. Kitou, H. Nakao, A. Kikkawa, S. Francoual, Y. Taguchi, R. Arita, Y. Tokura, T.-h. Arima, and M. Hirschberger

    Entropy-Assisted Long-Period Stacking of Honeycomb Layers in an AIB2-Type Silicide

    J. Am. Chem. Soc. 144, 16866-16871 (2022)
  2. M. Hirschberger, L. Spitz, T. Nomoto, T. Kurumaji, S. Gao, J. Masell, T. Nakajima, A. Kikkawa, Y. Yamasaki, H. Sagayama, H. Nakao, Y. Taguchi, R. Arita, T.-h. Arima, and Y. Tokura

    Topological Nernst Effect of the Two-Dimensional Skyrmion Lattice

    Phys. Rev. Lett. 125, 076602 (2020)
  3. M. Hirschberger, T. Nakajima, S. Gao, L. Peng, A. Kikkawa, T. Kurumaji, M. Kriener, Y. Yamasaki, H. Sagayama, H. Nakao, K. Ohishi, K. Kakurai, Y. Taguchi, X. Yu, T.-h. Arima, and Y. Tokura

    Skyrmion phase and competing magnetic orders on a breathing kagome lattice

    Nat. Commun. 10, 5831 (2019)
  4. M. Hirschberger, S. Kushwaha, Z. Wang, Q. Gibson, S. Liang, C.A. Belvin, B.A. Bernevig, R.J. Cava, and N.P. Ong

    The chiral anomaly and thermopower of Weyl fermions in the half-Heusler GdPtBi

    Nat. Mater. 15, 1161–1165 (2016)
  5. M. Hirschberger, R. Chisnell, Y.S. Lee, and N.P. Ong

    Thermal Hall effect of spin excitations in a kagome magnet

    Phys. Rev. Lett. 115, 106603 (2015)

研究紹介記事

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埼玉県和光市広沢2-1
フロンティア中央棟 208室

E-mail:
maximilian.hirschberger[at]riken.jp

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